今年上半期に日本国憲法の改正論議が盛んになったことに触発され、週に1日、A5ノート1ページのペースで日本国憲法を書写していました。先日に全文を書写し終わり、書写を通じた感想を(憲法学に基づくものではありません)断続的に書いていきます。

 1回目は前文です。
 ・理想主義的、普遍主義的な文章。憲法立案に携わった当時の日米関係者(米国はGHQ民生局、日本は幣原喜重郎政権)の意向か。五百籏頭真『占領期』によると、大日本帝国憲法による日本の再出発を考えた幣原政権がGHQの反対を受けて意気消沈したのち、新しい日本の船出のために新憲法を国家の根幹として積極的に受け入れていく様子が描かれています。
 ・第二段落「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意した」に疑問符が付きました。自分たちの安全と生存を他人の公正と信義に委ねるとは、と、古典的な国際関係の認識(自国は自国、他国は他国で国民の安全を守る)を、「隣人は善人」という発想をもって非常に進めた発想という印象を受けます。掲げた理想は素晴らしいものでしょうが、達成できていない(そして今後も達成の見込みはほとんどない)理想でもあります。

 以下原文。
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 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その権利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和の裡に生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想を目的を達成することを誓ふ。
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