今月予定の勉強会資料(源泉徴収と年末調整)をテキストで貼り付けます。
今年もこの按配で発想整理に当ブログを活用していきます。
日頃のご愛読に感謝申し上げます。
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本日のお題:源泉徴収と年末調整−手軽生活と市民権とを交換
0. 何故この話題が気になったのか:
…年末調整の記入項目に面食らったから(配偶者の有無、加入保険の公表etc)
⇒問題意識:なんで業務と無関係な個人情報を会社に報告しないといけないの?
1. 源泉徴収・年末調整の意義と仕組み
【語句の意味】
源泉徴収:「所得税法により給与、利子、配当、報酬など源泉徴収の対象と定められた所得の支払い者を源泉徴収義務者とし、この源泉徴収義務者がその支払いの後、その所得を受ける納税義務者(たとえば給与を受け取るサラリーマン)の納税すべき所得税を一定の割合で天引き徴収し、これを納税者本人に代わって納入する制度である」 (齋藤、p.39)
←所得税法第183条:「源泉徴収義務者は徴収した所得税額を、翌月の10日までに国庫に納入しなければならない旨を定めている。同法はさらに、月額表や日額表を設け、給与の支払い期間や金額、扶養家族の数などに応じて源泉徴収すべき税額を詳細に定めている」。(齋藤、p.39)
年末調整:「源泉徴収された金額と本来納付すべき正当な税額とを、源泉徴収義務者が暦年の最後の給与等の支払いを行う際に対比し、生産調整する行為である。毎月の給与支払い時の源泉徴収の段階では考慮されない生命保険料控除、損害保険料控除、配偶者特別控除などが年末調整の段階で行われ、可能額は納税義務者に還付されることになる。年末調整は年収2000万円以下の人が対象で、それ以上の年収がある場合は自ら確定申告しなければならない」。(齋藤、p.39-p.40)
【制定過程】
太平洋戦争遂行のための戦時税制として考案された。その後、戦後の混乱期に遅滞なく徴税を行うための緊急措置として、各企業(雇用主)に徴税実務を代行させる年末調整が導入されて、現在のサラリーマン税制が完成した。(橘、p.28)
【仕組み】
「サラリーマンの徴税と清算の手続きを雇用主が税務当局に代わって行うことにある。ただし雑損控除や医療費控除など一部の控除項目は年末調整の対象になっておらず、したがってこれら控除を受ける場合は、年収が2000万円に満たなくても、納税義務者自身が確定申告を行って清算する必要がある」。(齋藤、40p)
【特徴】
1) 広範な源泉徴収の範囲:
「源泉徴収の対象を給与、利子、配当、退職所得、公的年金等、報酬・料金・契約金・賞金、定期積み金の給付補填金など、限りなく範囲を広げているのに対して、ほとんどの先進国はその範囲を給与と、せいぜい利子や配当までに止めている」 (齋藤、p.43)
2) 精密な制度構築:
「源泉徴収の段階で税額及び給与所得控除、基礎控除、扶養控除など主要な人的控除を済ませられるようになっているため、源泉徴収税額と、年末になって確定する正当な税額との間には、大きな過不足がないのが一般的である。それでも生じるわずかな過不足をも源泉徴収義務者の手による年末調整でほぼ完全に清算してしまえる」 (齋藤、p.43-p.44)
2. 源泉徴収・年末調整のメリットとデメリット
1) 従業員にとってのメリットとデメリット
a. メリット
1. 給与所得控除をたくさん受けられる
2. 納税の手間無し(痛税感ゼロ)
b. デメリット
1. 税バカになる
2. 納税者の権利を放棄している(不平・不満を述べる権利無し)
3. プライバシー侵害(控除を受けるためには、個人情報を企業に報告する必要あり)
c.f. 国税通則法2条5号:「国税に関する法律の規定により国税(源泉徴収等による国税を除く)を納める義務がある者(国税徴収法に規定する第二次納税義務者及び国税の保証人を除く)及び源泉徴収等による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいう。」
⇒「サラリーマンはその収入から所得税を支払っているけれども、源泉徴収されている限り、彼(彼女)は納税者ではないと、法が定めている。代わって納税者の地位に立つのは、そのサラリーマンの勤務先なのである。したがってサラリーマンには納税の義務はあるけれども、納税者としての権利はない」(齋藤、p.75)
2) 国にとってのメリットとデメリット
a. メリット
1. 徴税コストを削減(企業に肩代わり)
2. 国民の個人情報入手
3. 国民の税バカ促進を手助け
b. デメリット
1. 特になし
3. 給与明細票を見返してみる
■サラリーマンの給与明細区分
・給与 - 経費(給与所得控除) = 税引き前利益
・税引き前利益 - 税・社会保障費 = 純利益(手取り収入)
※給与所得控除:日本国が一方的に決めており、実際に掛かった経費とは無関係
■控除項目内訳:14.7%(賞与平均)
・所得税:10%-97500円 ※195万円超 330万円以下の場合
・雇用保険料:1.5% ※事業主負担率:0.9% + 被保険者負担率:0.6%
・年金保険料:15.35% ※平成29年まで毎年0.354%ずつ引き上げ。平成29年次:18.3%
・基本健康保険料:4.9%
・特定健康保険料:3.3% ※基本・特定の合算を一般健康保険率とする。(4.9%+3.3% = 8.2%)
(閑話休題) 4. 税金・民主主義・政府のはなし
■税の三原則: 1) 簡素 2) 公平 3) 中立
⇒税の水平的公平(皆から同額もらう)or税の垂直的公平(もらった後の所得を同じにする)
⇒日本:税の垂直的公平寄り
e.g. 所得1800万円超の場合:所得税40%-2796000円
■民主主義の起こり:為政者(王様など)の徴税・利用を監視する - ギリシャローマからずっと同じ
■政府の提供するサービス:国民から集める税金によって提供される
⇒本来、税額によって政府の規模が変動する(はず)
●「望ましい政府の規模」論争
小さな政府(政府は最小限のサービスを提供して後はほったらかし)
vs
大きな政府(政府は国民の代わりにサービスを多く作って提供しよう)
5. 源泉徴収制度を巡る代表的な裁判事例
1) レストラン経営I社長(敗訴):
「日本ではサラリーマンも奴隷だし、国に無償奉仕を強制されている企業も奴隷だ」(橘、p.31)
2) 大島教授(敗訴):
「経費を実額で算定せず、給与所得控除として、国が一方的に決めるのはおかしい。サラリーマンにも自分の所得を正しく申告する権利がある」(橘、p.33)
c.f. 最高裁の判断:便利な制度なんだからまあいいじゃん。
「給与所得者に対する所得税の源泉徴収制度は、これによって国は税収を確保し、徴税手続きを簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず、担税者の側においても申告、納付等に関する煩雑な事務から免れることができる。また徴収義務者にしても、給与の支払いをなす際所得税を天引きしその翌月十日までにこれを国に納付すればよいのであるから、利するところ全くなしとはいえない。されば源泉徴収制度は、給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり、合理的であって、公共の福祉の要請にこたえるものといわなければならない(一九六ニ年二月二十八日)」 (齋藤、p.63)
6. 問題点の整理
1) 少なくとも、サラリーマンに年末調整か自己申告かを選択する権利を認めるべき。
c.f. 投資結果の税務報告:年末調整か自己申告かを選択可
2) 「年末調整」の名を借りて、雇用主が従業員の個人情報を収集するのはプライバシー侵害。
3) 税務署は企業を徴税機関に使っている。
4) 納税感覚が日常生活の中にないため、税バカになる一方。
7. 議論したいこと(論点・質問の提示)
1) 最寄りの税務署に行ったことがありますか?
2) 給与明細の各項目にいくら払っているかを知っていますか?
参考文献
・齋藤貴男 『源泉徴収と年末調整』 中公新書、1996年
・橘玲・海外投資を楽しむ会『「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計』 講談社+α文庫、2004年
・佐藤雅彦・竹中平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 日本経済新聞出版社、2002年
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今年もこの按配で発想整理に当ブログを活用していきます。
日頃のご愛読に感謝申し上げます。
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本日のお題:源泉徴収と年末調整−手軽生活と市民権とを交換
0. 何故この話題が気になったのか:
…年末調整の記入項目に面食らったから(配偶者の有無、加入保険の公表etc)
⇒問題意識:なんで業務と無関係な個人情報を会社に報告しないといけないの?
1. 源泉徴収・年末調整の意義と仕組み
【語句の意味】
源泉徴収:「所得税法により給与、利子、配当、報酬など源泉徴収の対象と定められた所得の支払い者を源泉徴収義務者とし、この源泉徴収義務者がその支払いの後、その所得を受ける納税義務者(たとえば給与を受け取るサラリーマン)の納税すべき所得税を一定の割合で天引き徴収し、これを納税者本人に代わって納入する制度である」 (齋藤、p.39)
←所得税法第183条:「源泉徴収義務者は徴収した所得税額を、翌月の10日までに国庫に納入しなければならない旨を定めている。同法はさらに、月額表や日額表を設け、給与の支払い期間や金額、扶養家族の数などに応じて源泉徴収すべき税額を詳細に定めている」。(齋藤、p.39)
年末調整:「源泉徴収された金額と本来納付すべき正当な税額とを、源泉徴収義務者が暦年の最後の給与等の支払いを行う際に対比し、生産調整する行為である。毎月の給与支払い時の源泉徴収の段階では考慮されない生命保険料控除、損害保険料控除、配偶者特別控除などが年末調整の段階で行われ、可能額は納税義務者に還付されることになる。年末調整は年収2000万円以下の人が対象で、それ以上の年収がある場合は自ら確定申告しなければならない」。(齋藤、p.39-p.40)
【制定過程】
太平洋戦争遂行のための戦時税制として考案された。その後、戦後の混乱期に遅滞なく徴税を行うための緊急措置として、各企業(雇用主)に徴税実務を代行させる年末調整が導入されて、現在のサラリーマン税制が完成した。(橘、p.28)
【仕組み】
「サラリーマンの徴税と清算の手続きを雇用主が税務当局に代わって行うことにある。ただし雑損控除や医療費控除など一部の控除項目は年末調整の対象になっておらず、したがってこれら控除を受ける場合は、年収が2000万円に満たなくても、納税義務者自身が確定申告を行って清算する必要がある」。(齋藤、40p)
【特徴】
1) 広範な源泉徴収の範囲:
「源泉徴収の対象を給与、利子、配当、退職所得、公的年金等、報酬・料金・契約金・賞金、定期積み金の給付補填金など、限りなく範囲を広げているのに対して、ほとんどの先進国はその範囲を給与と、せいぜい利子や配当までに止めている」 (齋藤、p.43)
2) 精密な制度構築:
「源泉徴収の段階で税額及び給与所得控除、基礎控除、扶養控除など主要な人的控除を済ませられるようになっているため、源泉徴収税額と、年末になって確定する正当な税額との間には、大きな過不足がないのが一般的である。それでも生じるわずかな過不足をも源泉徴収義務者の手による年末調整でほぼ完全に清算してしまえる」 (齋藤、p.43-p.44)
2. 源泉徴収・年末調整のメリットとデメリット
1) 従業員にとってのメリットとデメリット
a. メリット
1. 給与所得控除をたくさん受けられる
2. 納税の手間無し(痛税感ゼロ)
b. デメリット
1. 税バカになる
2. 納税者の権利を放棄している(不平・不満を述べる権利無し)
3. プライバシー侵害(控除を受けるためには、個人情報を企業に報告する必要あり)
c.f. 国税通則法2条5号:「国税に関する法律の規定により国税(源泉徴収等による国税を除く)を納める義務がある者(国税徴収法に規定する第二次納税義務者及び国税の保証人を除く)及び源泉徴収等による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいう。」
⇒「サラリーマンはその収入から所得税を支払っているけれども、源泉徴収されている限り、彼(彼女)は納税者ではないと、法が定めている。代わって納税者の地位に立つのは、そのサラリーマンの勤務先なのである。したがってサラリーマンには納税の義務はあるけれども、納税者としての権利はない」(齋藤、p.75)
2) 国にとってのメリットとデメリット
a. メリット
1. 徴税コストを削減(企業に肩代わり)
2. 国民の個人情報入手
3. 国民の税バカ促進を手助け
b. デメリット
1. 特になし
3. 給与明細票を見返してみる
■サラリーマンの給与明細区分
・給与 - 経費(給与所得控除) = 税引き前利益
・税引き前利益 - 税・社会保障費 = 純利益(手取り収入)
※給与所得控除:日本国が一方的に決めており、実際に掛かった経費とは無関係
■控除項目内訳:14.7%(賞与平均)
・所得税:10%-97500円 ※195万円超 330万円以下の場合
・雇用保険料:1.5% ※事業主負担率:0.9% + 被保険者負担率:0.6%
・年金保険料:15.35% ※平成29年まで毎年0.354%ずつ引き上げ。平成29年次:18.3%
・基本健康保険料:4.9%
・特定健康保険料:3.3% ※基本・特定の合算を一般健康保険率とする。(4.9%+3.3% = 8.2%)
(閑話休題) 4. 税金・民主主義・政府のはなし
■税の三原則: 1) 簡素 2) 公平 3) 中立
⇒税の水平的公平(皆から同額もらう)or税の垂直的公平(もらった後の所得を同じにする)
⇒日本:税の垂直的公平寄り
e.g. 所得1800万円超の場合:所得税40%-2796000円
■民主主義の起こり:為政者(王様など)の徴税・利用を監視する - ギリシャローマからずっと同じ
■政府の提供するサービス:国民から集める税金によって提供される
⇒本来、税額によって政府の規模が変動する(はず)
●「望ましい政府の規模」論争
小さな政府(政府は最小限のサービスを提供して後はほったらかし)
vs
大きな政府(政府は国民の代わりにサービスを多く作って提供しよう)
5. 源泉徴収制度を巡る代表的な裁判事例
1) レストラン経営I社長(敗訴):
「日本ではサラリーマンも奴隷だし、国に無償奉仕を強制されている企業も奴隷だ」(橘、p.31)
2) 大島教授(敗訴):
「経費を実額で算定せず、給与所得控除として、国が一方的に決めるのはおかしい。サラリーマンにも自分の所得を正しく申告する権利がある」(橘、p.33)
c.f. 最高裁の判断:便利な制度なんだからまあいいじゃん。
「給与所得者に対する所得税の源泉徴収制度は、これによって国は税収を確保し、徴税手続きを簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず、担税者の側においても申告、納付等に関する煩雑な事務から免れることができる。また徴収義務者にしても、給与の支払いをなす際所得税を天引きしその翌月十日までにこれを国に納付すればよいのであるから、利するところ全くなしとはいえない。されば源泉徴収制度は、給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり、合理的であって、公共の福祉の要請にこたえるものといわなければならない(一九六ニ年二月二十八日)」 (齋藤、p.63)
6. 問題点の整理
1) 少なくとも、サラリーマンに年末調整か自己申告かを選択する権利を認めるべき。
c.f. 投資結果の税務報告:年末調整か自己申告かを選択可
2) 「年末調整」の名を借りて、雇用主が従業員の個人情報を収集するのはプライバシー侵害。
3) 税務署は企業を徴税機関に使っている。
4) 納税感覚が日常生活の中にないため、税バカになる一方。
7. 議論したいこと(論点・質問の提示)
1) 最寄りの税務署に行ったことがありますか?
2) 給与明細の各項目にいくら払っているかを知っていますか?
参考文献
・齋藤貴男 『源泉徴収と年末調整』 中公新書、1996年
・橘玲・海外投資を楽しむ会『「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計』 講談社+α文庫、2004年
・佐藤雅彦・竹中平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 日本経済新聞出版社、2002年
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